
KMD / Peachfuzz
黄金期HipHopの無邪気さと知性が交差した瞬間
90年代初頭、HipHopがゴールデンエイジへと突き進んでいた熱狂の只中で、ひときわ異彩を放っていたのがKMDです。デビューアルバム Mr. Hood からの先行シングル Peachfuzz は、コミカルで人懐っこい表情の裏に、当時のアンダーグラウンドが愛した知性と皮肉をシッカリ刻み込んだナンバーとなっています。後年、Zev Love X が MF Doom として再始動し神格化されたコトで、このKMD期の音源が原石として再評価されているのは、もはやHipHop史の定番ストーリーですが、その出発点としてこのPeachfuzzが放っている輝きは、今聴いてもまったく色褪せないですね。
ソウル・サンプリングが生む肩の力の抜けたグルーヴ
まず耳を掴むのは、1967年のソウル・クラシック O.C. Smith / On a Clear Day (You Can See Forever) から抜かれた繊細なピアノ・フレーズです。柔らかなコード感が、ローエンドを抑えたタイトなビートと結びつき、力みのない、それでいて芯のあるグルーヴを形成しています。ブレイクではムダを削ぎ落とした配置が効き、ラジオ映えするキャッチーさと、DJが現場で間を作れる余白を同時に確保っ!12インチならではの音圧と見通しの良さが、フロアでも自宅でも心地よく鳴ってくれるのがタマらないですね。
ユーモアの奥に潜む批評性と90sアンダーグラウンドの精神
リリックはタイトル通り「Peachfuzz=思春期の産毛」をモチーフに、まだ幼さの残る少年たちが背伸びして大人ぶる可笑しみを、ウィットたっぷりに描写しています。女の子たちの笑い声や「Peachfuzz!」という掛け声がフックとして機能し、中毒性のあるコーラスへと昇華されていく一方で、コトバ選びは鋭く、複雑なライムと独特のフロウが自然体で転がっていくのがKMDらしさですね。90年当時、チャートを賑わせるメインストリームとは別の回路で、クラブやカレッジ・ラジオ、感度の高いDJたちに支持された理由は明快で、ユーモアと批評性、ストリート感覚と知性のバランスがバツグンっ!B面収録の Gasface Refill も含め、12インチ1枚でKMDの世界観を立体的に味わえるこのオリジナル盤は、後年の評価軸から逆照射される起点としても価値が高く、今こそ針を落として体感してほしい1枚です。






